「Again」 |
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彼のことが大好きだった。 もっと一緒にすごしたかった。 ずっと一緒にいるのだと信じていた。 なのに、 とても不安な予感がしたあの雨の日、彼は姿を消してしまった。 どうしてなのかわからなかった。 長い間待っていたけど、彼は迎えに来てくれない。 寂しくて、会いたくて、探し始めた。 この街には数え切れないほど大勢の人間がいるのに、 たったひとりが見つからない。 どこにいるの。 どこへ行ったの。 どうしていないの。 会いたいのに。 ─── ………… 毎日毎日、探し続けた。 彼の姿を、彼の声を、彼の匂いを求めて。 彼のいた場所 彼と行った場所 彼の歩いた場所 あちこち探した。 だけど彼は見つからない。 それでも どこかにいると信じていた。 おなかがすいても休まなかった。 足から血が出ても歩き続けた。 ひとりぼっちになっても諦めなかった。 ─── もう彼はいないのだ。 わかっていても、探し続けた。 雑踏をさまよい 雨に打たれ 泥水をすすり 冷たい路上の隅で眠って 彼の姿を探し続けた。 もう一度、彼に会いたくて。 声を聞きたくて。 抱きしめてほしくて。 ─── ただ会いたくて。 長い長い時間が過ぎた。 彼の消えた街を出て、どれだけ経っただろう。 どれだけたくさんの町を探して歩いただろう。 そしてある日、 ─── 見つけた。 ヨークシンシティから遠く離れた田舎町の公園で、昼食を広げていた主婦が 驚いたような悲鳴を上げる。 「大変!あんたの子供のそばに犬がいるわよ!!」 しかし隣に座っていた若い母親は、こともなげに言った。 「大丈夫よ。あの犬は何も悪さはしないわ」 「でも、あんな大きなノラ犬…」 「いいのよ。正式にうちで飼おうと思っているの。それにジュニアも『ママ』より 先に『ワンワン』を覚えた犬好きだしね。……本当、父親そっくり」 芝生の上には、彼女の1歳になったばかりの息子と、一匹のレトリバーが 座っている。 数週間前に姿を現したその犬は常に彼のそばに佇み、どんな時も離れようと しない。慈愛に満ちた穏やかな目を向ける犬に、幼い息子は一目でなついた。 今も、よちよち歩きの彼を導くように前方で待機し、転びかけたら即座に クッションになる。最大限の好意を示すように尻尾を振ってすり寄り、だけど 決して飛びついたり引っ張ったりはせず、優しくあやす。 その姿はまるで従僕のようでもあり、守護神のようでもあり、親のようにさえ 見えた。 「きっと、天国の彼が遣わしてくれたのね……」 栗色の長い髪を揺らしてエリザは微笑んだ。 ようやく会えた私の主。 姿が変わっても間違えはしない。 もう絶対に離れない、死ぬまで彼のそばにいる。 これは操作でも契約でもなく、自分の意志。 貴方の命令を何でも聞こう。 だから、決して先に逝かないでほしい。 それだけが私の願い。 貴方は私が守る。─── 今度こそ守ってみせる。 私の命が尽きても、私の子供達が貴方を守る。 いつまでも、いつまでも、一緒にいる。 My Master-Squwala …… |
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END 愛犬家スクワラに捧ぐ BACK |