「親友」 |
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かけがえの無い友人は、同時に最大のライバルでもある。 そんな言葉を遺した先人がいたとかいないとか。 いや、たとえいなかったとしても真実だと思う。 内心でそう呟きながら、レオリオは目の前の光景を見た。 草原を駆ける子犬二匹と美猫一匹。 ではなく、ゴンとキルアとクラピカ。 四人は久しぶりに休暇を合わせて同窓会としゃれ込み、 平和な国の平和な自然公園へ遊びに来ていた。 天気も良く、ここへ来る前に寄ったレストランの昼食も 美味しくて、うきうきと足を運んだ緑豊かな公園内では、 元気のあまった子供たちがじっとしているはずもない。 駆けっこだの、クワガタを発見しただの、ビートルとの対戦 だのと、実に楽しそうにはしゃいでいる。 よほど機嫌が良いらしく、ゴンに誘われたクラピカも参加 していた。 今までは保護者の気分で微笑ましく眺めていたレオリオだが 形容しがたい焦燥が胸にわだかまっている。 ――― クラピカが楽しそうなのは、良い。つーか嬉しい。 お子様たちが元気なのも結構だ。 などと父親の心境で考えつつも、つい眉が寄ってしまう。 レオリオがクラピカを見つめていると、やたらとゴンの姿が 視界に入るのだ。 理由は簡単、彼がクラピカにまとわりついているゆえ。 顔をのぞきこんだり、手を繋いだり、抱きついたり。 オトナ気ない事は百も承知だが、無邪気にじゃれつくゴンに 対して、穏やかならぬ感情が沸き立っている。 険悪より仲良しの方が良いに決まっているが、それは友情 もしくは子供の憧れレベルの話であって、実質的な色恋沙汰と なると話は別だ。 あの天然で天真爛漫なゴン少年が、実は女性の扱いに長けた 年上キラーであると知ったのは、つい最近。 それまではむしろ、いろんな意味で早熟なキルアの方が ライバルゾーンに近いと思っていたのに。 クラピカも嬉しそうだから、余計に複雑だった。 視線を感じたのか、ふと顔穂を上げたゴンと視線が合う。 レオリオは不自然な笑顔を浮かべ、さりげなく手招いた。 「なにー?レオリオ」 素直にトコトコと駆け寄って来る姿は、本当に子供なのに。 その7歳も下の子供に敵愾心を抱いてしまう自分をいささか 情けなく思いつつ、レオリオは口を開いた。 「楽しそうだな」 「うん!楽しいよ!」 返って来るのは天使の笑顔。 己の穢れっぷりを実感して良心が痛む。 それでも、言わずにはいられなかった。 「なぁゴン。お前、クラピカ好きか」 「うん、好きだよ?」 迷いの無い即答は予想通り。 「そうか。…でもなぁ、その、わかってると思うけど、あー、 …クラピカは、オレのもんだからな?」 その言葉に、大きな目がキョトンとまたたく。 さてどう出るか。 表面上は余裕の笑顔を装いながら、内心では戦々恐々と レオリオはゴンの反応を待つ。 ――― そして。 「何言ってんのレオリオ。クラピカは『モノ』じゃないでしょ。 そんな言い方、失礼だよ」 至極当然の反論に、絶句した。 しかしすぐに立ち直り、言葉を紡ぐ。 「…あ、ああ。そうだな。言い方が悪かった。あー、だから つまり…」 「何の話だ?」 当事者の声に、思わず言葉が止まる。 「あのねークラピカ、――― ムグ」 「何でもない何でもない何でもない!」 引きつり笑いと共にゴンの口を押さえ、レオリオは至極不自然に ごまかした。 怪訝な目でレオリオを一瞥し、クラピカはゴンに向き直る。 「見つけたのだよゴン。これだろう?」 「あー!ホントだ四つ葉!先越されちゃったー」 どうやら彼等は四つ葉のクローバーを探していたらしい。 草むらでは、いまだキルアが地面に張り付いて捜索している。 「よーし、じゃあ次はオレが見つけるからね!」 そう言って、ゴンは意気揚々と駆け出した。 入れ替わるように、クラピカがレオリオの隣に腰を下ろす。 「内緒話か?」 「お、おう」 というか、とてもクラピカには言えない。 ――― ゴンに危機感を持って釘を刺そうとしたなんて。 「なるほど。男同士の秘密か」 どこか羨むような口調に、レオリオの良心が再び痛む。 「はい」 「ん?」 そんなレオリオの内心を知らず、クラピカはクローバーを 差し出した。 「お前にやろう」 「え…だって、お前が見つけたんだろ?ならお前が持ってろよ」 四つ葉のクローバーは幸運の証だから。 「お前に持っていてもらいたいのだよ」 所有者に幸運が訪れるように。 そんな想いを込めて。 「クラピカ……」 じーんと胸にしみこむ嬉しさを実感し、レオリオは破顔する。 そしてクラピカからクローバーを受け取った。 ――― これは良い機会かも知れない。 咄嗟に思いつき、クローバーの細い茎をクルクルと巻いて 輪を作る。 「なァ、クラピカ」 「何だ?」 照れくささを隠しきれず、それでもはっきりとした発音で告げた。 「オレたち、そろそろ『友達』は卒業しねえか?」 「え…?」 不思議そうに向けられた瞳をまっすぐに見返し、レオリオは クラピカの手を取る。 その薬指に、クローバーで作った指輪をはめるべく。 ――― だが次の瞬間。 「クラピカー!」 明るく響いた声に、凍りついたように動きが止まる。 息せききって駆け寄ってきたのは、案の定というかゴン。 「クラピカ、はいこれ!」 彼が笑顔で差し出したのは、シロツメクサの花冠。 「私に?」 「うん!オレこういうの得意なんだ!」 いつのまに四つ葉探しから転換したのやら。 ゴンはクラピカの頭に花冠を載せ、それはそれは嬉しそうに 笑顔を浮かべた。 「わぁ、やっぱり似合うね。お姫様みたいだよ」 「ありがとう、ゴン」 花のようにクラピカが笑っている。 何という幸せな光景だろうか。 ――― 渡し損ねたクローバーリングとレオリオの存在さえ 忘れなければ。 やはりゴンは警戒対象だとレオリオは確信する。 たとえ計算も下心も無い素だとしても、相当な強敵だ。 親友は最大のライバル。 その言葉を再認識し、誰にも言えない対抗心を密かに燃やす レオリオだった。 |
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